
ギリシア神話
ヘラクレスの弓矢は、ギリシア神話の英雄ヘラクレスが用いた遠距離武器であり、ヘラクレスの弓、ヘラクレスの神弓とも呼ばれる。その矢はレルネーのヒュドラの死後、毒血に浸され、かすり傷だけでも命を奪う毒矢となった。のちにはピロクテテスやトロイア戦争の勝敗とも結びつく。
ヘラクレスの弓そのものを誰が作ったのか、また最初にどこから来たのかを明確に説明する物語はない。現存する叙述の中で最もはっきりした起源の出来事は、レルネーのヒュドラの死後に矢が変化したことである。ヘラクレスはヒュドラの体を切り開き、矢じりをその血に浸して、もとの矢を恐るべき毒矢にした。以後、この弓矢は英雄の射撃武器であるだけでなく、ヒュドラの毒性を帯びた致命的な遺物にもなった。
ヘラクレスの弓矢は強力な遠距離殺傷力を持つ。矢じりがレルネーのヒュドラの毒血に浸された後は、皮肉をかすめるだけでも死をもたらす。邪悪な鷲を射殺してプロメテウスを救うことができ、ネッソスを射殺したことで、のちにネッソスの毒血がヘラクレスの死を招くことにもつながった。遺物としては予言上の意味も持ち、ピロクテテスがこの弓矢を携えて戦場に戻ることが、トロイア陥落の条件となる。
ヘラクレスの弓矢は、ヘラクレスの英雄的な装備の中でも重要な武器の一つであり、棍棒や獅子の皮とともに語られることが多い。棍棒が彼の近接戦の力を示すのに対し、弓矢は遠射の技量と懲罰の力を示す。これはただの狩猟弓ではなく、重要な神話上の事件に何度も関わる英雄の武器である。
ヘラクレスの事績において、この弓矢は危険な敵を討ち、災厄を取り除くために用いられた。ヘラクレスは、プロメテウスの肝臓をついばんでいた邪悪な鷲を矢で射殺し、縛られていたプロメテウスを解放した。また、デイアネイラをさらおうとしたケンタウロスのネッソスも矢で射殺している。
ヘラクレスの死後、この弓矢はピロクテテスのもとに現れる。ギリシア艦隊がピロクテテスをレムノス島に置き去りにしたときも、衣服、食料、そしてヘラクレスの弓矢は彼のもとに残された。のちにギリシア人は予言によって、ピロクテテスがヘラクレスの弓矢を携えて戦場に戻らなければ、トロイアは陥落しないと知る。
『レルネーのヒュドラ』は、ヘラクレスがヒュドラを殺した後、その体を切り開き、矢じりを毒血に浸したことで、矢が致命的な毒矢になったと明確に述べている。『ヘラクレスのその後の事績』と『ヘラクレスの死と昇天』には、これらの矢が後の出来事で用いられる場面が伝えられている。
『ピロクテテス、レムノス島に置き去りにされる』と『ネオプトレモスとピロクテテスの帰還』は、この弓矢をピロクテテス、トロイア戦争、そして予言と明確に結びつけている。現存する叙述は、ピロクテテスが最初にどのようにヘラクレスの弓矢を得たのかを詳しく説明していないため、譲渡の過程を単一の確定した形として書くのは適切ではない。