
ギリシア神話
十二の難行の後も、ヘラクレスは神話世界を歩き続けた。この項目は後年の事績の概観とし、プロメテウスの解放やトロイア遠征など、独立した物語になっていない出来事に焦点を絞る。
十二の難行を終えた後も、ヘラクレスは静かな生活に消えていったわけではない。彼はカウカソス山で鷲に苦しめられるプロメテウスを解放し、後にはトロイア王ラオメドンの破られた約束を思い出す。アドメトス、オンパレ、デイアネイラ、そして彼の死については、それぞれ独立した物語で扱う。
十二の難行がようやく終わると、ヘラクレスはエウリュステウスの宮殿をあとにした。
その陰気な宮殿からは、幾度となく彼を死地へ送り込むような命令が下された。ネメアの獅子、レルネのヒュドラ、クレタの牡牛、冥府の番犬。どれも生きて戻れるとは思えない務めだった。けれどもヘラクレスは戻ってきた。肩にはなお獅子の皮をまとい、手には太い棍棒を持ち、背には弓と矢筒を負っていた。その矢じりにはヒュドラの毒がしみており、かすっただけでも傷は容易に癒えなかった。
本来なら、彼はそこで足を止め、どこかの都市に身を落ち着け、人々の歌と酒宴に迎えられて暮らしてもよかった。だがヘラクレスの生涯に、そのような安らぎはほとんどなかった。力はあまりに強く、名声はあまりに大きく、敵もまた多すぎた。ある者は彼に助けを求め、ある者は宴に招いて欺き、ある者は彼の怒りに巻き込まれて死に、またある者は彼の手によって死から救い出された。
こうして彼は、ふたたび旅に出た。
あるとき、ヘラクレスは遠い北方へ向かった。そこでは山々が天を突き破るほど高くそびえ、岩の割れ目から吹き下ろす寒風は、人の目を開けていられなくするほどだった。崖には人影もなく、灰白色の空を鷲の影だけが旋回していた。
歩いていたヘラクレスは、ふと岩壁の上から苦しげな息づかいが聞こえるのに気づいた。見上げると、一柱の神が鉄の鎖で崖に固く縛りつけられている。鉄輪は手首と足首に食い込み、身体は冷たい岩肌に押しつけられていた。そのそばには巨大な大鷲がとまり、鉤のようなくちばしで彼の肝をついばんでいる。血は岩を伝って流れ落ち、山すその砕けた石の間へしみ込んでいった。
縛られていた神は、プロメテウスだった。
はるか昔、彼は人間に火をもたらし、ゼウスの意志に背いた。そのために、この長い罰を受けていたのである。昼になると大鷲が飛んできて肝を食らい、夜のうちに傷はまたふさがる。そして翌日、苦痛は初めから繰り返された。
その光景を見たヘラクレスの顔は険しくなった。彼は多くを尋ねず、退きもしなかった。肩から弓を外し、一本の矢を抜くと、ぐらつく岩を足で押さえ、静かに弦を引きしぼった。
弦が鳴ると、矢は黒い稲妻のように飛んだ。大鷲は頭を下げて肉を裂いているところで、翼を広げる間もなく射抜かれ、プロメテウスのかたわらから転げ落ちて岩に叩きつけられた。
ヘラクレスは崖をよじ登り、鉄の鎖をつかんだ。指に力を込めると、鎖は耳ざわりな音を立ててきしみ、鉄輪は一つまた一つと緩んでいった。ついにプロメテウスは岩壁から解かれた。長い年月、自由に歩くこともなかった神は、岩にもたれて立ち、深く息を吐いた。
とはいえ、ゼウスの裁きは枯れ枝のように簡単に折れるものではなかった。伝えられるところでは、誰かがプロメテウスの代わりに運命を引き受けて初めて、彼は本当に解放されることになっていた。のちに賢いケンタウロスのケイロンが、自らの不死を手放すことを望み、その死によって苦しむ者の自由が成り立ったという。
またプロメテウスは、カウカソスの石をはめ込んだ鉄の輪を身につけた。こうして人々は、彼がなおあの山のしるしを少しばかり帯びており、ゼウスの判決も跡を残したのだと語った。
ヘラクレスは山に長く留まらなかった。弓を背に戻し、また人間の世界へ歩き出した。背後から山風が吹き、岩の上では鎖が最後に何度か、うつろな音を立てた。
リュディアを離れたのち、ヘラクレスはもう一つの古い恨みを思い出した。
何年も前、トロイア王ラオメドンは神々の怒りを買っていた。海の怪物が海岸へ送られ、民を呑み込んでいた。王の娘ヘシオネは海辺の岩に縛られ、怪物に食われるのを待たされていた。そこを通りかかったヘラクレスは、神馬を報酬として与えることを条件に、怪物を殺すと約束した。
彼は怪物を倒し、王女を救った。だがラオメドンは事が済むと約束を破り、報酬を渡そうとしなかった。
ヘラクレスはそのことを忘れなかった。
今や彼は船と仲間を集め、トロイアへ向けて漕ぎ出した。海風が帆をふくらませ、英雄たちは上陸すると城壁へ突き進んだ。ラオメドンの城は堅く高かったが、城壁はヘラクレスの怒りを防げなかった。彼は町へ攻め入り、ラオメドンとその息子たちを殺し、一人の若者だけを残した。
その若者は、のちにプリアモスと呼ばれることになる。
ヘシオネはヘラクレスに、弟を許してほしいと願い、贖いの品と引き換えに命を救ってほしいと頼んだ。ヘラクレスはそれを聞き入れた。こうしてプリアモスは生き残り、やがてトロイアの新しい王となった。
町の火の光がしだいに消えていくころ、ヘラクレスは戦利品を携えて去った。トロイアはこの災いを忘れなかった。長い年月ののち、その町はさらに大きな戦争へ巻き込まれることになる。だがそれは、また別の世代の血の負債である。
この道には、ほかにも後年の出来事が属している。しかしそれらは、それぞれ独立した物語で読むほうがよい。ヘラクレスはアドメトスの館でアルケスティスを死から連れ戻し、イピトスを殺してオンパレに仕える罰を受け、やがてデイアネイラと結婚し、ネッソスの血によって欺かれ、オイテ山で終わりを迎える。ここでは、それらを二度目の完全な語りではなく道しるべとして残す。