
ギリシア神話
ギリシア連合軍はアウリスを出航し、海峡を越えてトロイアの近くまで進む。しかし上陸の前後に、不吉な犠牲が相次いだ。ピロクテテスは毒蛇にかまれて置き去りにされ、プロテシラオスはトロイアの土を最初に踏んだ者となり、同時に戦場で最初に倒れた者となった。
アウリスでついに風が吹くと、ギリシア船団は湾を離れ、トロイアへ向かった。船には各地の王、兵士、失われた名誉を取り戻そうとする望みが詰め込まれていた。これは短い略奪ではなく、ヘレネ、古い誓い、多くの家の誇りを背負った大遠征だった。船が岸を離れた以上、ギリシアの王たちはもうこの戦争を遠い噂として扱うことはできない。 航海の途中、ピロクテテスはヘラクレスから受け継いだ弓と矢を携えていた。ところが船団が島に立ち寄り、神々へ犠牲を捧げていたとき、毒蛇が彼をかんだ。傷は黒ずみ、膿み、彼の叫びは夜通し続き、悪臭は船陣全体を悩ませる。ついに将たちは冷酷な決定を下し、彼をレムノス島に残していく。そばに置かれたのは弓矢とわずかな食糧だけで、後に重要となる弓の持ち主は、痛みと孤独の中に閉じ込められた。 やがてトロイアの城壁が海岸の向こうに見えてきた。船が浅瀬へ近づくと、不吉な予言が兵たちの間を走る。最初にトロイアの土を踏むギリシア人は必ず死ぬ、というのだ。敵の声は前方から聞こえていたが、誰も最初に飛び降りようとはしない。ためらいが広がる中、プロテシラオスが進み出て盾を締め、波の中へ跳び込み、トロイアの砂に足を下ろした。 プロテシラオスは先頭に立って突撃し、その勇気に押されてギリシア勢も次々と船を降りる。トロイア勢は城壁の陰に隠れてはいなかった。ヘクトルが戦士たちを率いて海辺へ来て、両軍は波と砂と血の中でぶつかり合う。プロテシラオスは前線で激しく戦ったが、予言は彼を逃さなかった。ほどなく彼はヘクトルに討たれ、トロイアの地で最初に死んだギリシアの英雄となる。 プロテシラオスが倒れると、悲しみと怒りがかえってギリシア勢の上陸を押し進めた。アキレウスや他の将たちも戦いに加わり、トロイア勢は城の方へ押し戻される。ギリシア人は船を浜に引き上げ、海辺に陣を築いた。ピロクテテスは置き去りにされ、プロテシラオスは死んだ。包囲が本格的に始まる前から傷は刻まれ、この砂浜から十年のトロイア戦争が本当に始まった。
アウリスの湾では、長いあいだ帆が力なく垂れていた。
ギリシア各地から集まった軍船は、岸辺に幾列も並んでいた。船体は日差しに熱くなり、櫂は舷側に立てかけられ、水夫たちはただ静かな海を眺めてため息をつくしかなかった。全軍の総大将はアガメムノンであり、そのそばにはメネラオスが立っていた。彼の心は、遠いトロイアにいるヘレネのもとへ向かっていた。諸国の英雄たちもすでにそろっていた。足の速いアキレウス、知略に富むオデュッセウス、巨きな体をした大アイアス、そして多くの王たちと、彼らが率いてきた兵士たちである。
やがて、ようやく風が起こった。
はじめは海面をかすめる涼しい気配だけだった。次に、帆柱の綱がかすかに鳴り、帆がふくらんだ。水夫たちは声を合わせ、岸の杭につないでいた綱を解いた。漕ぎ手は長椅子に戻り、青銅で固めた船首が海水を割って進み出す。湾にはたちまち、木の船が押し合う音、櫂が水に入る音、将兵たちが互いに呼び交わす声が満ちた。
ギリシアの大軍はアウリスを離れ、東へ向かった。
彼らが目指すのは、プリアモス王の都トロイアだった。そこには高い城壁があり、堅固な門があり、山から流れ下る川があり、簡単には屈しない戦士たちがいた。ギリシア勢は皆、この遠征が短い討伐では終わらないことを知っていた。それでも船はすでに岸を離れた。もはや誰も、この戦を遠い噂として聞き流すことはできなかった。
船団は海峡を抜け、トロイア沿岸の島々へ近づいていった。海は穏やかな時もあれば、風波が舷を打つ時もあった。夜になると、兵士たちは外套にくるまって甲板に眠り、目を覚ますと、湿った潮風と船底の木の匂いをかいだ。
英雄たちの中に、ピロクテテスという男がいた。彼はもっとも目立つ将ではなかったが、きわめて貴重なものを携えていた。ヘラクレスの遺した弓と矢である。その弓はかつて大英雄とともに戦場を渡り、矢には恐るべき力が宿っていた。多くの者は、いつかトロイアを攻める時、この弓矢が必ず役に立つと信じていた。
ところが運命は、まずピロクテテスへ手を伸ばした。
船団が島に寄った時、ギリシア勢はいつものように神々へ犠牲を捧げた。祭壇の近くには草木が茂り、石の割れ目は暗く湿っていた。ピロクテテスがそこへ近づいたその時、毒蛇が陰から飛び出し、彼の足にかみついた。彼は悲鳴を上げて地に倒れた。仲間たちが駆け寄った時には、蛇はもう草むらへ消え、足首だけがみるみる腫れ上がり、傷口から悪臭を放つ膿と血が流れ出していた。
はじめ、人々は彼を救おうとした。清水で傷を洗う者があり、布で脚を縛る者があり、神々へ祈る者もあった。けれど毒は骨肉の奥へ入り込み、ピロクテテスは痛みに耐えかねて一晩中のたうった。ある時は船板に歯を立て、ある時は声を限りにうめき、その叫びは夜の海の上を遠くまで漂った。傷の臭気はいよいよ強くなり、隣の船の兵士たちでさえ耐えがたくなった。
諸将は集まって相談した。仲間を置き去りにすることが名誉ある行いでないことは、誰にも分かっていた。だが軍はまさに戦場へ向かおうとしている。彼の叫びは祭儀や号令をしばしば妨げ、傷の臭いは兵士たちの心まで乱していた。最後に、オデュッセウスと数人の首領が、冷酷な決定を実行した。ピロクテテスをレムノス島に残していくことにしたのである。
彼らは弓矢を彼のもとに置き、わずかな食料も残した。ピロクテテスは岸辺に横たわり、船が一隻また一隻と去っていくのを見ていた。かつて彼は、諸英雄とともに城攻めに加わるものと思っていた。だが今、耳に聞こえるのは岩を打つ波の音だけであり、そばにあるのは痛みと孤島と、あのヘラクレスの弓だった。
ギリシア船団は、さらにトロイアへ向かって進んだ。
ほどなくして、船首の先に陸が見えた。
それはただの海岸ではなかった。遠くの丘は日光を受けて輝き、川は平野を曲がりくねって流れ、高みに横たわる城壁は灰白色の石の線のように見えた。兵士たちは次々に立ち上がり、手を額にかざして見つめた。初めてトロイアを目にした者の中には、思わず低く「ここなのか」とつぶやく者もいた。
アガメムノンは隊列を整えるよう命じた。各船の戦士たちは盾を取り、長槍をそばに立てた。漕ぎ手は速度を落とし、船は列をなして浅瀬へ近づいた。水はしだいに浅くなり、船底が砂利をこすって鈍い音を立てた。
ところがその時、不穏な予言が人々の間に広がった。
すでに聞いた者がいたのである。トロイアの土を最初に踏むギリシア人は、必ず死ぬ、と。
その言葉は冷たい水のように、兵士たちの胸へ注がれた。船はもう岸に近づき、敵は目の前にいる。それでも誰も、最初に船から飛び降りる者にはなりたくなかった。兵士たちは盾を握り、砂浜を見つめ、また隣にいる仲間を見た。波は何度も船首を打ち、まるで彼らを急き立てているかのようだった。
そのうちの一隻で、プロテシラオスが進み出た。
彼はピュラケの出身で、若く勇敢な男だった。甲冑をまとい、手には長槍を握っていた。彼も予言を聞いていたし、その言葉の重さも分かっていた。だが大軍が船上でためらっていれば、トロイア勢はその隙を逃さず、ギリシア勢を海へ追い返すだろう。プロテシラオスはもう待たなかった。盾を腕にかけ、船首に立ち、浅瀬へ身を躍らせた。
水しぶきが上がり、彼の脛当てを濡らした。次の一歩で、彼はトロイアの砂浜を踏んだ。
上陸するなり、プロテシラオスは槍を掲げて前へ駆けた。従者たちは主がすでに飛び降りたのを見て、次々に舷側を越えた。他の船のギリシア兵たちも、その勇気に奮い立った。大きな叫び声が上がり、船首からは次々に渡し板が下ろされ、戦士たちは海水を踏みしめながら浜へ押し寄せた。
トロイア勢は城の中に隠れていたわけではなかった。
彼らはすでに海上の帆を見ており、異国の軍勢が迫っている知らせを聞いていた。ヘクトルはトロイアの勇士たちを率いて海辺へ駆けつけ、槍と盾が陽光の下で光った。城の人々は知っていた。これはただの略奪ではない。ヘレネのため、そして都の名誉のために来た大戦なのだ、と。もし敵に落ち着いて陣を築かせれば、災厄は城外に根を下ろすだろう。
二つの軍は浜辺で激突した。
プロテシラオスは先頭を走った。彼は敵陣へ斬り込み、向かってきた戦士を槍で突き倒した。足もとの砂は海水と血に混じって濡れていった。ギリシア勢は彼の戦いぶりを見て声を合わせて叫び、トロイア勢もまた退こうとはしなかった。盾と盾がぶつかり、槍の穂先が折れ、傷ついた者は浅瀬のほとりに倒れ、波に何度も洗われた。
しかし予言は、彼を見逃さなかった。
ヘクトルが前へ出た。彼はプリアモスのもっとも勇敢な息子であり、トロイア軍のもっとも頼もしい柱だった。二人は乱戦の中でぶつかった。槍の影がひらめき、盾が震える音を立てた。プロテシラオスは勇敢だったが、定められた死を防ぐことはできなかった。ほどなく彼はヘクトルに討たれ、岸辺に倒れた。こうして彼は、トロイアの土の上で最初に死んだギリシアの英雄となった。
仲間たちは彼が倒れるのを見ると、悲しみと怒りに駆られてその遺体を取り戻そうと殺到した。ギリシア軍の中から、さらに大きな叫びが湧き起こった。アキレウスも戦いに加わり、疾風のように砂地を駆け抜け、トロイア勢を次々に押し返した。大アイアスは巨大な盾を掲げて味方を守り、ほかの首領たちもそれぞれ兵を率いて船のそばから前進した。
この日、トロイア勢はギリシア勢を海へ追い落とすことができなかった。
彼らは城門の内側へ退き、海岸を敵に明け渡した。ギリシア勢は船を陸へ引き上げ、杭と壕で陣地を囲み、船のそばに天幕を張った。夜が降りると、あちこちに火がともった。兵士たちは武器をぬぐい、傷を包み、そしてプロテシラオスのために涙を流した。
トロイアの城壁は、なお遠くにそびえていた。
昼の叫びと殺し合いの音はやみ、平野には草地を渡る夜風だけが残った。ギリシア勢の船は海辺に並び、船尾を海へ、船首を陸へ向けていた。船から降りた者は誰もが悟っていた。もはや簡単には引き返せない。背後には広い海があり、前方には高い都と、それを守る敵がいる。
プロテシラオスの死は、この土地に足を踏み入れる代価を人々に刻みつけた。ピロクテテスが孤島に残されたことは、すでに遠征の道に刻まれた最初の傷だった。そして今、トロイアの土を最初に踏んだ者までもが倒れた。ギリシア勢はまだ城門の下にさえ迫っていないのに、戦は早くも仲間を奪っていったのである。
それでも陣は築かれ、船は陸へ引き上げられ、火の光は並ぶ盾と槍を照らしていた。アガメムノンは諸将を集め、夜の見張りと翌日の軍務を定めた。メネラオスは城の方を見つめた。その中には彼が取り戻そうとする人がいて、またこの戦の根も隠れていた。
この日から、ギリシア勢はもはやトロイアへ向かう遠征軍ではなくなった。彼らはトロイアの土に到着し、海辺に陣を張り、平野を隔てて城内のトロイア勢と向かい合った。長い包囲戦は、プロテシラオスが倒れたあの砂浜から始まったのである。