
ギリシア神話
ティタンとの戦いが終わると、ゼウスとその兄弟たちは天地の支配を分け合った。ゼウスは空を、ポセイドンは海を、ハデスは冥府を得る。新たな神々の王はやがてオリュンポス山に神々を集め、かつての混乱した争いをひとまず鎮めた。神々にはそれぞれの座が定まり、世界にも新しい支配者が生まれた。
ティタンの一族が敗れたあとも、天地はまだ本当の静けさを取り戻してはいなかった。クロノスは王位を失ったが、空と海と地下の暗い場所をだれが治めるのか、その決着はまだついていなかった。ゼウス、ポセイドン、ハデスは、勝利ののちに開けた世界を前にして、くじによってそれぞれの領分を分けることにした。
ティタンとの長い戦いが、ついに終わった。
その戦は長く続いた。山々は雷鳴に震え、海は嵐に巻き上げられ、大地の底までも巨大な手で揺さぶられているようだった。クロノスとティタンの神々は、かつて高い場所から若い神々を押さえつけていた。だが、クレタ島で育ったゼウスは、父に呑み込まれた兄弟姉妹を救い出し、幽閉されていた独眼巨人と百腕巨人を解き放ち、ついに古い王を倒した。
敗れたティタンたちは、闇の奥深くへ押し込められた。タルタロスは大地の下にあり、けっしてたどり着けない夜のように遠い。そこには重い門があり、青銅の壁があり、百腕巨人たちが見張りについている。クロノスとその一族はそこに閉じ込められ、もはや昔のように手を伸ばして空をつかむことはできなくなった。
けれども、古い王が倒れたからといって、すべてがすぐに穏やかになったわけではない。
世界はまだ、目の前に広がったままだった。頭上には果てしない空があり、雲はうねり、雷火はその陰に潜んでいる。遠くには終わりの見えない海があり、波は岩を打ち、白い泡は裂かれた羊毛のように散っていた。足もとには大地があり、そこには神も、人も、獣も、森も住んでいる。そして大地の下には冷たい暗がりがあり、いつか死者の影がみなそこへ向かうことになる。
こうした場所を、主のないままにしておくわけにはいかなかった。勝利した神々も、いつまでも争いだけを頼りに生きることはできない。そこでゼウスと二人の兄弟、ポセイドンとハデスは、新しい世界の前に立った。
ゼウスは長兄ではなかった。だが、クロノスを倒したのは彼だった。彼の手には雷霆が握られていた。それはただの火ではなく、人間の炉にくべる炭火でもない。独眼巨人たちが彼のために鍛えた神の武器だった。ひとたび投げれば、空は白い光に裂け、山の頂は砕け散る。
ポセイドンはそのそばに立っていた。この神の気性は激しく、のちに彼が治める海そのもののようだった。静かなときは底知れず、怒れば船をひっくり返す。彼の手にはやがて三叉の矛が握られる。その穂先が打ち下ろされると、岩は割れ、海水は奔流となってほとばしる。
ハデスもそこにいた。ゼウスのようにまばゆくはなく、ポセイドンのように風浪の中で怒りをあらわにすることも少ない。彼は黙っており、その顔は暗く、大地の奥から届く声に耳を澄ましているかのようだった。地下へ続く道、死者の門、日の光の届かない宮殿は、みな自分たちの主を待っていた。
三人の兄弟は、ティタンたちのように互いを食い破ろうとはしなかった。彼らはくじを引くことにした。
くじが取り出され、運命もまたそこで定まった。ゼウスは空を得た。雲、雷、雨、鷲が飛ぶ高み、それらはすべて彼の支配に属することになった。それ以来、彼は雲の上に座して命を下し、雷霆は彼の手の中で声となった。
ポセイドンは海を得た。広々とした海面、深みに流れる暗い潮、海の怪物が泳ぐ水底、船人が順風を願う波のあいだ、それらはみな彼の管轄となった。彼の心が穏やかなとき、海面は磨かれた青銅のように輝く。だが彼が怒れば、黒い波は幾重にも押し寄せ、帆柱は折れ、船体はうめき声を上げる。
ハデスは地下の冥府を得た。そこはただの洞穴でも、夜の谷間でもない。死者が最後に赴く場所である。生きている者がそこを見ることはまれで、太陽の光も届かない。ハデスは暗い国の王となり、死者の影、地下の富、そして容易には引き返せない道を守ることになった。
空と海と冥府には、それぞれ主が定まった。大地はなお、神々と万物の足もとに広がっている。人間はそこで耕し、供え物をし、争い、老いてゆく。神々もまたそこで姿を現し、愛し、怒り、罰を下す。けれども、最も高い裁きは、しだいにゼウスの手へ集まっていった。
空を得たゼウスには、神々が集まる場所も必要だった。
神々が選んだのはオリュンポス山だった。その山は天頂を支えるかのように高く、山腹には雲霧がまとわり、頂にはいつも澄んだ光があった。人間の足ではたどり着くことが難しく、山の下では風雪がうなっていても、山上には別の明るい住まいが開けているようだった。神々はそこに宮殿を築いた。金色の光が門柱を照らし、雲は階段のそばを行き来した。
ゼウスが高い座に着いたのは、ただ空を引き当てたからではない。戦いのさなか、彼が若い神々を率いてクロノスに立ち向かったからでもあった。戦のあと、神々は彼の地位を認め、彼を神々の王とした。
だが、神々の王とは、一人ですべてを握りしめる者のことではなかった。
ゼウスは神々にそれぞれの栄誉と持ち分を割り当てはじめた。だれが何を司るのか、だれがどんな供え物を受けるのか、どんな事柄で人間が祈りを捧げるのか、それらをはっきり定めねばならなかった。神々は気まぐれのない影ではない。争い、怒り、恨みを覚え、自分の取り分が損なわれれば災いを起こすこともある。ゼウスが新しい世界を安定させようとするなら、雷霆で脅すだけでは足りなかった。神々の一人ひとりに、自分が神々の間でどこに座るのかを知らせる必要があった。
ヘラは彼の王妃となり、オリュンポスの尊い座に着いた。彼女は婚姻を守り、自らの尊厳を重んじる。その目はしばしばゼウスの振る舞いに注がれ、侮られたと感じれば、その怒りは人間の世界にまで及ぶ。
デメテルは大地と穀物を気にかけた。彼女が野を歩けば、麦の穂は豊かに実る。彼女が悲しめば、大地も冷え、種は土の中で縮こまって芽を出そうとしない。人間が収穫を望むなら、彼女への祭りを忘れることはできなかった。
ヘスティアは家の火を守った。彼女は多くの神々のように駆け回って争うことはない。それでも、どの家にも、どの祭壇のそばにも、彼女の居場所があった。火が消えなければ、家はまだそこにある。祭りの火が立ちのぼれば、神々は人間の祈りを聞くことができる。
若い世代の神々も、次々とオリュンポスの光の中に立った。アテナはゼウスから知恵と、戦場における冷静さを受け継いだ。彼女はただ槍を振るうだけでなく、技と策によって都市を守ることを人間に教える。アポロンは弓矢、竪琴の響き、神託をもたらした。彼の矢は病を運ぶこともあれば、けがれを追い払うこともある。アルテミスは山野を歩み、野の獣と少女たちを守る。月光の下では、彼女の猟犬の足音が聞こえる。アレスは戦場の叫びを好み、ヘパイストスは炉のそばで金属を打ち、アフロディテは神も人も愛欲に引き寄せる。
これらの神々には、それぞれ気性があり、手にする道具があり、好む供え物と土地があった。オリュンポスは静まり返った空の宮殿ではない。そこは明るく、同時に危うい、神々の住まいだった。
ゼウスは高みに座り、雷霆を手にして、黒雲を呼び寄せることも、田畑に雨を降らせることもできた。彼は使者を送り、命令を遠くまで届けさせた。人間の誓いを見守り、誓いを破る者を罰した。もしだれかが分を越え、自分も神々と肩を並べられると思い上がれば、頭上に雷鳴が響くこともあった。
けれども、ゼウスの権威にも境はあった。
ポセイドンは、ゼウスが神々の王だからといって、自分が海を治めていることを忘れはしなかった。船が波頭を越えてゆくとき、水夫たちは彼に祈る。海に寄り添って生きる都市も、彼の三叉の矛を恐れ敬う。ひとたび彼が怒れば、大地さえ震え、泉が湧き出し、馬の群れがいななく。
ハデスは、オリュンポスの宴に姿を見せることがさらに少なかった。彼は地下の宮殿に住んでいる。そこには薄暗い川が流れ、門を守る恐ろしい犬がいて、死者がたやすく戻ることのできない道が続いている。人々は彼の名を多く口にしたがらなかった。それでも、だれも彼の国を逃れられないことは知っていた。王も、牧人も、戦士も、機を織る女も、命の終わりにはみな彼のもとへ向かう。
だから、新しい取り決めは、世界をただ一柱の神に渡すものではなかった。広大な天地をいくつもの領域に分けたのである。空には空の王があり、海には海の主があり、地下には地下の門を守る者がいる。オリュンポスの神々はゼウスを最高の支配者として認めたが、重要な神々はそれぞれ自分の栄誉と持ち分を保った。
そののち、人間が大地に生きるとき、空を仰げばゼウスを思い、海へ出ればポセイドンを思い、死者を葬るときにはハデスを思うようになった。畑にはデメテルがあり、炉辺にはヘスティアがあり、城壁の上にはアテナがあり、山林にはアルテミスがいる。神々はもはや、戦の前のようにすべてをめぐって乱れ争うのではなく、それぞれの場所で力を示すようになった。
オリュンポス山では、宴が始まった。
神々は不死の甘露を飲み、宮殿に響く琴の音に耳を傾けた。雲は山腹を流れ、山頂の光は彼らの座を照らしていた。ゼウスは最も高い場所に座り、雷霆をそばに置いた。ヘラはその隣にいて、まなざしは厳かだった。ほかの神々も、それぞれの身分と栄誉に応じて席に着いた。
それは、これから先に争いが二度と起こらないという意味ではなかった。神々には愛憎があり、嫉妬があり、怒りがある。人間の都市や英雄をめぐって、互いに言い争うこともある。けれども、クロノスが子どもたちを呑み込み、ティタンの神々が新しい神々を押さえつけていた時代は、すでに過ぎ去っていた。古い王は深みに閉じ込められ、新しい王は雲の上に座り、空と海と冥府にはそれぞれの主が定まった。
世界はそれ以来、新しい姿を持つようになった。
雷が鳴れば、人々はそれが天上のゼウスの怒り、あるいは命令であると知った。海面が急に黒く荒れれば、ポセイドンの心を軽んじてはならないと知った。墓土が閉じられれば、死者がハデスの道へ入ったのだと知った。オリュンポスの神々はそれぞれの栄誉を守り、人間からの捧げ物を受け取った。
三兄弟が世界を分け合ってから、神々の時代はようやく本当の座を得た。高い山の上にはオリュンポスがあり、雲のさらに上にはゼウスの王座がある。そして人間の世界では、祭壇の煙がゆっくりと立ちのぼり、すでに自らの座に着いた神々のもとへ流れていった。