
ギリシア神話
トラキアは、ギリシア神話でギリシア世界の北方に位置する広大な地域であり、異国の王国、海岸の寄港地、山林の伝承の舞台としてしばしば現れる。英雄たちの遠征譚ではとくに重要で、アルゴナウタイ、ヘラクレス、オルフェウスなどの旅程や出自がこの地と結びついている。
トラキアは、海に面し、山林の多い北方の地域として描かれる。そこには海岸、宮殿、馬小屋のほか、山腹、川岸、人里離れた森も含まれる。アルゴナウタイは金羊毛を求める航海の途中でトラキア付近の海岸に近づき、ヘラクレスもディオメデスの牝馬を探して海を渡りトラキアへ向かった。オルフェウスの伝承では、トラキアは山野、河川、ディオニュソスの狂乱の祭儀が交わる地域として示される。
これらの物語において、トラキアは単独の都市ではなく、海岸、王宮、山林、河川、牧馬地を含む地域である。ギリシア本土の外側に置かれることが多く、遠方への婚姻、遠征、予言、暴力的な王権、辺境の英雄譚を展開する舞台となる。
トラキアは音楽とディオニュソス信仰の伝統とも結びついている。オルフェウスはトラキアの歌人とされ、その竪琴の音は山野や川岸に響く。彼を殺したマイナデスもトラキアの山中で活動する。一方で、テーレウス、ディオメデス、ピーネウスといった人物により、トラキアは王権、罰、英雄の試練の場にもなっている。
トラキアはしばしば、海に面し、山に近く、森と河川を備えた地域として描かれる。『ディオニュソスとパレーネ』では、パレーネはトラキアの海辺に置かれ、海風、山の影、王宮を含む景観の中に現れる。『ピーネウスとハルピュイア』では、アルゴー船がトラキア付近の海岸に近づき、そこで盲目の予言者ピーネウスに出会う。
『オルフェウスの死』ではヘブロス川にも言及され、オルフェウスの首と竪琴は川に投げ込まれ、流れに乗って海へ向かう。関連する物語全体では、トラキアは海岸、山腹、森、川筋、王国の領地が並存する北方の地域として描かれている。
『ディオニュソスとパレーネ』ではトラキアが言及される。パレーネはトラキアの海辺に置かれ、ディオニュソスはそこで残虐なシトン王を打ち破る。
『プロクネーとピロメーラー』ではトラキアが言及される。アテナイの王女プロクネーはトラキア王テーレウスのもとへ嫁ぎ、物語の中心となる惨劇もこの異国の王国で起こる。
『オルフェウスとエウリュディケ』ではトラキアが言及される。オルフェウスはトラキア出身の歌人として描かれ、エウリュディケを失った後、トラキアの山林へ戻って歌う。
『オルフェウスの死』ではトラキアが言及される。オルフェウスはトラキアの山腹と川岸でマイナデスに殺され、その首と竪琴はその後、川を流れていく。
『ピーネウスとハルピュイア』ではトラキアが言及される。アルゴナウタイはトラキア付近の海岸でピーネウスに出会い、衝突岩を通過するための助言を得る。
『クレタの牡牛とディオメデスの牝馬』ではトラキアが言及される。ヘラクレスは人食いの牝馬を奪うためにトラキアへ向かい、その地でアブデロスの記念を残す。