
ギリシア神話
ミケーネは、ギリシア神話においてアルゴス周辺の重要な王城であり、ヘラクレス伝説ではとくにエウリュステウスの王権と結びついている。ここは、ヘラクレスが神託に従って苦役を命じられ、戦利品を持ち帰る政治的中心である。
ミケーネはギリシア本土のペロポネソス半島北東部にあり、伝統的にはアルゴリス地方に属する。神話の叙述では、荒野や聖域ではなく、宮門、王座、城内の権力構造を備えた王城として描かれる。ヘラクレスはここからたびたび出発し、ネメア、レルナ、クレタ、トラキア、さらに西方の遠隔地へ向かう。
ヘラクレスの苦役伝承において、ミケーネの中心的な意味はエウリュステウスに由来する。エウリュステウスはミケーネの王位にあり、出生の順序、ヘラの働きかけ、デルポイの神託によって、ヘラクレスに命令する資格を得る。ヘラクレスは戦いに敗れたために彼に従うのではなく、親族殺しの後に罪を償う必要があり、神託によってこのミケーネ王のもとへ向けられる。
そのためミケーネは、苦役物語における命令の中心となる。エウリュステウスはここから任務を出し、ヘラクレスに各地へ赴いて怪物を制圧し、宝物を手に入れ、生き物を連れ帰るよう命じる。任務を終えたヘラクレスも、獅子の皮、猪、牡牛、牝馬、帯、牛の群れなどをミケーネへ、あるいはエウリュステウスの前へ持ち帰ることが多い。この王城の役割は戦場を提供することではなく、王権、神意、英雄の贖罪を結びつける点にある。
物語の中のミケーネは、アルゴス周辺の地名と密接に関係している。ネメアとレルナはいずれもアルゴス周辺の危険な場所として語られ、ヘラクレスはミケーネからそれらの地へ向かい、任務を終えると王城へ戻って報告する。苦役が進むにつれて、ミケーネはさらに広い旅の帰着点にもなる。クレタの牡牛、トラキアの牝馬、アマゾン女王の帯、ゲリュオンの牛の群れは、いずれも最終的にエウリュステウスのいる王城へ持ち帰られるものとして物語に配置されている。
「ミケーネ」は、ミケーネ時代やミケーネ・ギリシア語といった歴史的名称の由来の一つでもある。線文字Bの粘土板に保存された初期ギリシア語資料がしばしば「ミケーネ」の名で呼ばれるのは、この名称が、関連資料の初期の発掘と識別の場に関する伝統と結びついているためである。こうした歴史言語上の側面は神話叙述とは異なるが、どちらもミケーネを、ギリシア初期の王権、宮廷、文字文化を代表する名として位置づけている。
神話の中のミケーネは、王城であり宮廷空間である。エウリュステウスは王座から命令を下し、宮門の前でヘラクレスが持ち帰った戦利品を受け取ったり、それを恐れて避けたりする。歴史的に見ても、ミケーネは青銅器時代ギリシアの宮廷文明を代表する重要な名称である。線文字Bの粘土板はミケーネ、ティリンス、テーバイなどで出土しており、ミケーネは神話上の王権の場所であるだけでなく、初期ギリシア語の文字使用と宮廷行政の記憶にも結びついている。
『ヘラクレスの狂気とエウリュステウス』ではこの場所が言及される。ヘラクレスは親族を殺した後、デルポイの神託を求め、テーバイを去ってミケーネ王エウリュステウスに従うよう命じられる。
『ネメアの獅子』ではこの場所が言及される。エウリュステウスはミケーネから最初の苦役を命じ、ヘラクレスは獅子を殺した後、その皮をまとってミケーネへ戻り、任務の完了を報告する。
『レルナのヒュドラ』ではこの場所が言及される。ヘラクレスとイオラオスはミケーネからレルナへ向かい、任務を終えた後、エウリュステウスのもとへ戻る。
『ケリュネイアの牝鹿とエリュマントスの猪』ではこの場所が言及される。ヘラクレスは牝鹿と猪をミケーネへ連れて行き、エウリュステウスは恐れと難癖でそれに応じる。
『アウゲイアスの家畜小屋とステュムパロスの鳥』ではこの場所が言及される。エウリュステウスはミケーネで、ヘラクレスにエリスとアルカディアへ向かう次の任務を命じる。
『クレタの牡牛とディオメデスの牝馬』ではこの場所が言及される。ヘラクレスはクレタの牡牛とトラキアの牝馬をミケーネへ連れ帰り、苦役を成し遂げた証拠とする。
『アマゾン女王の帯』ではこの場所が言及される。エウリュステウスは娘アドメテの望みにより、ヘラクレスにヒッポリュテの帯を取ってくるよう命じ、最終的にミケーネでその宝物を受け取る。
『ゲリュオンの牛』ではこの場所が言及される。ヘラクレスははるか西方の地からゲリュオンの赤い牛の群れを連れ戻し、最後にそれらをエウリュステウスの前へ引いてくる。