
ギリシア神話
クレタ島は、ギリシア神話で海に囲まれた重要な島であり、ゼウスの誕生、エウロペの到来、ミノス王の宮廷と迷宮の伝承に結びついている。神々の王が幼年期に隠された避難地であると同時に、クレタ王権、ミノタウロス、ダイダロスの物語の中心地でもある。
クレタ島は、クロノスの目から遠く離れ、四方を海に囲まれた島として語られる。島には山地、洞穴、森、海岸、王宮があり、エウロペはフェニキアの海辺からゼウスに連れられてこの島へ来た。ダイダロスもアテナイから逃れてこの島に渡り、のちに島から飛び去ろうとした。
クレタ島は、ギリシア神話ではまずゼウスの幼年期伝承における避難地である。レアはクロノスから逃れるため、生まれたばかりのゼウスをクレタ島の洞穴に隠し、産着に包んだ石でクロノスを欺いた。のちのティーターン戦争の叙述でも、ゼウスの成長はこの島と結びつけられている。
クレタ島はまた、エウロペ神話の到着地でもある。ゼウスは白い牡牛に姿を変えてフェニキアの王女エウロペを連れ去り、波を越えてクレタ島のゴルテュン周辺へ到着した。エウロペは島でミノス、ラダマンテュス、サルペドンを産み、クレタ島は複数の王族と英雄系譜の出発点となった。
ミノス王に関わる伝承では、クレタ島は王宮、迷宮、ミノタウロスの物語の中心である。ダイダロスはアテナイを逃れた後、ミノスに迎えられてクレタ島で迷宮を築いた。ミノタウロスは迷宮の奥深くに閉じ込められ、のちにテセウスが迷宮へ入って怪物を倒し、アリアドネと糸玉の助けで外へ出た。
物語におけるクレタ島は、山、洞穴、海岸、王宮が組み合わさった舞台として描かれることが多い。ゼウスの誕生と隠匿の場面は山地の洞穴に集中し、岩壁、洞口、山腹、樹木、蜂の群れといった自然描写が添えられる。これらの要素は、クレタ島を身を隠すのに適した島として印象づけている。
エウロペの物語では、クレタ島は海上から姿を現し、遠くに山並み、岸辺に石の浜と木陰が見える場所として描かれる。ゴルテュン周辺は清泉と樹木のある場所とされ、ゼウスとエウロペが出会い、エウロペが島にとどまる地点となっている。
ダイダロスの物語におけるクレタ島は、宮廷と海島の性格をあわせ持つ。ミノスの王宮には石段、中庭、柱、祭壇、倉があり、海風が柱廊へ入る。島の周囲には海路と港があり、ミノスが船を支配したため、ダイダロスとイカロスは空を使って脱出する道を選ぶことになった。
クレタ島には、聖なる物品と祭祀伝承の舞台としての断片も残されている。『タンタロス』では、クレタ島にゼウスの神殿があり、そこに黄金の犬が納められていたとされる。のちにこの神宝は盗まれ、タンタロスの物語へとつながっていく。
『アポロンとピュトン』では、アポロンがデルポイの聖所を創設した後、クレタ島から来た船の進路を変え、乗っていた人々をパルナッソス山の麓へ導いて新しい聖所に仕えさせる。この挿話はクレタ島をデルポイの祭司伝承と結びつけるが、物語の中心となる場所はあくまでデルポイである。
『クロノスによる子どもたちの呑み込み』では、レアがガイアの助言に従ってクレタ島へ来て、洞穴でゼウスを産み隠す。
『ゼウスの誕生と帰還』では、ゼウスがクレタ島の洞穴で女神たち、アマルテイア、クーレテスに守られ、成長した後にクロノスのもとへ戻る。
『ティーターン戦争』では、ゼウスがクレタ島で成長し、その後きょうだいたちを救い出してティーターンと戦う。
『ゼウスとエウロペ』では、ゼウスが白い牡牛に姿を変え、エウロペをフェニキアからクレタ島のゴルテュン周辺へ連れて行く。エウロペは島でミノスらを産む。
『ダイダロスとイカロス』では、ダイダロスがクレタ島へ来てミノスに仕え、迷宮を築き、さらにイカロスとともに島から飛び立つ。
『アポロンとピュトン』では、アポロンがクレタ島から来た船員たちをデルポイへ導き、聖所の祭司とする。
『タンタロス』では、クレタ島のゼウス神殿と黄金の犬が、タンタロスの罪に関わる伝承の一部となっている。